西荻ズム・西荻盤Chūhaiの始まり。MUSIC BAR VOX店主・藤岡隆

西荻盤Chūhai収録曲のレコーディング現場。
VOXとのコラボ作品[僕らの箱]曲誕生の経緯について、隆さんのベース録音中に団らんインタビュー。
@大田宅半地下スタジオ

登場人物:
MUSIC BAR VOX店主&Bass:藤岡隆
Vo:大田誠師
Gt:小野寺のりふみ(HiruNori1
カメラマン:torii seico

▷楽曲情報【歌詞・参加Artist】

[僕らの箱]

けれど朝は夏を待たず
たたみ掛けた 町をよそに
あの日が溢れだす

抱きしめたグラスの底に 悶えた夢や愛があった
また会えるといい
膨らんだ会話の先に 昨日や明日の名残があって
また会えるといい

くたびれる暮らし 風を光を聴いていた
焦げ付いた過去に 秋の帳が降りていた

あの日に肘をつく

夜が並ぶ、声が揚がる けれど朝は星を待たず
机に肘をつく

膨らんだ会話の先に 昨日や明日の名残があって
また会えるといい
包まれた嘘 ほら、笑い合った
また会えるといい

--------------------------------------------
作詞:大田誠師/ 作曲:大田、小野寺/ 編曲:大田、昌平、小野寺
Ba:藤岡“ピストル”隆(クリエイティブ・ビート)
Vo:大田誠師(芥)
Gt:小野寺のりふみ(HiruNori)
Pf:山田昌平
ミックス:大田誠師
マスタリング:三木肇(M&N録音サービス)
イマジネーション:MUSIC BAR VOX

 

  • 西荻ズムとは、西荻盤Chūhaiとは

大田:
まず西荻ズム(ニシオギズム)とはなんなんでしょうね。
まあ、西荻主義という、一先ず、そういう大きなフォルダーというか“括り”を作り、そこを軸に何かをこしらえていこうかと、そう思ったわけです。
そのこしらえモノが西荻盤Chūhai (ニシオギバンチューハイ)。

それじゃ、西荻盤Chūhai(ニシオギバンチューハイ)とはなんなのかと言うと…
一言でいえば、飲食店とのコラボCD(盤)を作る企画。
はい。缶チューハイとかけてます。
盤をつくって店に置いてもらって。
酒を頼むみたいにCDを買ってもらって、ほんの少しでもお店の足しになってくれたらなあと。

緊急事態宣言2もあって、昔ほど居酒屋に行けなくなったと。
店自体、営業をしてなかったり、営業していても時間などの制限があったり…
店主や常連にも会えず。
コロナ禍でこんな大変な時期なのに“飲んで応援”ができず歯がゆいな、と。

自分がもし、ね、大工さんならトンカチを持ったし…それかもし、水泳選手だったら泳ぎを活かした何かをしたけど…
一応、自分には音楽があるっていうので。
その音楽を通じてなんかできないかなって思ってたんですよ。
それがコロナが騒がれ始めたぐらいの時のことで。

で、それでまあ僕になにができるのかと。
店主と集まって曲を作るのか?
もしくは、店をスタジオとしてレコーディングをするのか?
飲食店と音楽をどう結びつけることができるのか?自問自答。

それで隆さんの店でまあ、そういう自問自答を実験的に試しつつ…

藤岡:
いつだろう?6月?
なんかうちで…STUDIO VOX3
多分それがはじまりかな。

小野寺:
最初、誠師さんは、STUDIO VOXで隆さんのお店のインストを作ってたんです。
でも、やっぱ隆さんの店の曲だったら…その、隆さんがもう誠師さんの歌がすごい好きだから…インストじゃなくて、誠師さんの歌が入ってる方がいいんじゃないかということで。
俺がこの企画(西荻ズム)に参加することになってから、そういう提案をしたら…

小野寺のりふみ(HiruNori)

小野寺のりふみ(HiruNori)

 

大田:
僕はゆくゆく店で流すなら歌無しのインストが良いんだって拘ったのよね。
歌は入れない方がいいって…でも、それでも尚、強く押し切られ…まあ隆さんが喜んでくれるんだったら、ね、それが一番ですから。それで、あたしが歌うことに。

小野寺:
それで7月の頭だったか、6月の後半だったか覚えてないですけど…そのころ、休業中のVOXをお借りして、俺が持ってきたコード進行に、誠師さんが即興でメロディをつけてくれるって感じで。

大田:
なんとなく集まって、なんとなく作ったのよね。別に前もって決めてたわけじゃなく。
あの日に大まか、歌詞まで出来たよね。
さらに“北の光”(別収録曲)まで…一気に2曲出来ちゃった。
期せずして曲が揃ったものだから企画の骨子?みたいなのがおぼろげにぼんやりと見えてきた…

この企画は最初から今に至るまでぼんやりしているのですが…
僕は走りながら考えるタイプなんです。
走っているうちに景色(全体像)が見えてくる。
目的や結果、過程に頓着せずにスタートしちゃう性分で。

よく言われるんだよね。

何やってるかわかんないだとか、それ意味あんのとか。
でも僕は意味は考えないです。
考えると形骸化しちゃったり、腰が重くなるというか。
よく分からないながらも走って、初速の好奇心のまま企画へ、そして中身(内容)へと発展させていけたらな、と。
まだぼんやりしてますが。

大田誠師(芥)

大田誠師(芥)

 

小野寺:
俺はもう単純に面白そうだから参加させてもらいましたけど。

大田:
いい曲できたよね。手前味噌ですけど。
店名のVOXは声って意味だけど…声(VOX)よりは、あそこの場所(ボックス=箱)のイメージを先行させて、それに見立てて作ったのよね。

小野寺:
あえて。ちょっとした言葉遊びで。

大田:
そそ。ダブルミーニングですよ。
松本隆的な。
隆さん、曲を聴いてみてどうでしたか?

藤岡:
曲はすごいですね。
いいですけどね、なんでボックス(箱)かと思ったけど…けど、まあ、歌はすごくいいと思う。

小野寺:
隆さんがロック好きなんで、ロック寄りのアレンジの方が良いのかなあと思って…隆さんにちょっと相談したんですよ。
デモを聴いてもらいながら、こんな感じでいいですか?って聞いたら…
『誠師が作る曲だったらなんでもいいよ。』と言う絶大な信頼のもとに今回制作させていただいたので(笑)

大田家の半地下スタジオでレコーディング中。コード進行の確認をしてる。

大田家の半地下スタジオでレコーディング。コード進行の確認中。

 

藤岡:
これは共作なの?誠師節だなぁと思って。

大田:
共作ですよ。
コードはのりふみが持ってきて。

小野寺:
そうっすね。
俺も誠師さんに雰囲気を寄せたところはあったかもです。

大田:
この曲はVOXのカウンターで作ったんだよね。
のりふみがギターを弾いて、そこに僕は紙とペンを持って、詩を書いて歌メロを即興で充てるという。

普段、僕はギターを弾きながら曲を作るんですよ。
今回のはあたし、ギター弾く手がないから。作曲の過程でギターを弾かずに歌だけじゃないですか。
その分、自由に歌えましたね。
「また会えるといい」のサビの部分の歌のリズムのズレとか。自由に。

藤岡:
「また会えるといい」って歌詞がいいね。

大田:
やっぱりね、ああいう、みんなが集う場所ですから、はい。そういうのも意識して作っておりますよ。

隆さんの自宅から店までCDを運ぶのを手伝ったじゃないですか?大きなバンのレンタカーを借りて。
一回じゃとても運びきれなくて…。店に大量のCDありますよね。
何枚ぐらいあるんですか?

 

  • 2万枚のCDと1500枚のレコード

藤岡:
数えたことないけど2万枚くらい。

小野寺:
最近だとCDに加え、レコードまで追加されましたもんね。

藤岡:
レコードは何枚だろう。1500枚ぐらい?

なんでいっぱいあるかって言ったら、とにかくいいものを聴きたいから。
誰かが「これすごくいいんですよね」って言った時に自分が知らないっていうのが嫌なのね。
「すごくいいのがあるんですけど、これ知ってます?」って言われたら。
(そのレコード、うちに)あるよって言いたいわけ。

大田:
店でリクエストしたら、すぐ隆さんが見つけてくれるもんね。
図書館の司書みたいな感じで、連なる棚へいってパッとCDを見つけてくれる。

小野寺:
隆さんはお店を開く前からとんでもなく音楽を聴いてたわけじゃないですか。
店をやり始めてからの方が音楽を聴く幅は広がったんですかね?

藤岡:
幅は変わらないとは思うけどね。
昔からいろんなのを聴こうと思ってるし。
今、どんなのがいいんだろう?ってアンテナは張ってる。

昔の曲も良いけど、今一番いいものを聴きたいから。
「今、これいいですよね」って言われたら、良いよねって言いたい。

 

  • SMAP原曲のインディーズバンド

大田:
そうそう、隆さんちに行った時に聴かせてもらった、あのSMAPの曲なんですっけ?
[朝日を見に行こうよ]のバンド…

藤岡:
ミラクルシャドウ4。ほぼ売れてないけど。
そのミラクルシャドウをよく聴いてて。
なんでこれ?SMAPがやってんだろうなと思って。

大田:
原曲がミラクルシャドウのものとはつゆ知らず。
あのバージョンもいかにもバンドっぽくて、曲の良さが立って良いですね。

隆さんは、昔の洋楽ロックだけじゃなくて、初恋の嵐とか中村一義とか幅広く聴いてるから話しやすいです。

VOXって飲み物は何がよく出るんですか?
ビールの種類もけっこうありますよね。

VOXでの隆さん。

VOXでの一コマ。沢山のお酒と音楽。

 

藤岡:
ビールは結構でるね。

大田:
おすすめメニューは?ラムレーズンかな?
しっかりとラム酒が効いてて美味しいですよね。

藤岡:
ラムレーズンはね、自粛中だからあんまり作らない。

大田:
自粛…。まあいつ宣言が明けるとか言われてますけど。
西荻の飲み屋街も閑散として、通りも暗くて…こんな西荻、今まで見た事ないもんな。
※このインタビューは9月中旬に行われた

藤岡:
うちも影響は受けてる、オープンした時から。
今年はほとんどちゃんとやってないからっていうのはあるじゃないですか、もっとちゃんとやりたいなあっていうのはね。

 

  • 大田「ささやかな交流にセラピー的な要素もあるわけで。」

大田:
お酒と音楽のお店なのに酒を出せないって…。
事情を何も知らない人からすると、そんなのただお酒を出さなきゃいいだろっ自粛してなさいよ、って話なんだろうけどさ。

そういうことじゃないんだよね。

お店を開けてさ、店主と客との、人と人とのコミュニケーションなわけよ。
溜飲を下げたり馬鹿話したり、そんなささやかな交流にセラピー的な要素もあるわけで。

コミュニケーションをとることでさ、おのおの人生の一端を吐き出したり吸収して…色々大変なんだなとか、明日がんばろうとか、次に進む活力になるわけじゃないですか?
これ、「自粛」のふた文字でプツンと絶たれるっていうのが…ただ営業を自粛するという行為以上のきつさがあるよね。

そんな街の軋みをあげる様子を一町民にとして見てて…やるせない。
不要不急を正義みたいに振りかざされるとやりきれない。
自粛だの不要不急だの、そんな言葉だけでは簡単に捌けないですよ。
町での暮らしとか、ささやかな感動とか、後回しのきかない常に必要なものですよ。

隆さん?酒出せないっていうのって辞めたくなった時あるでしょう?

お酒と音楽を楽しめる店をしよう!と心に決めて開店して、その出鼻をくじかれ、封じられて…というか…
封じられてると言うよりは、今まで良かれと思ってたものがさ、それがまるでなにか悪いものみたいに扱われるのが…やるせない、やるせない。

悪いのはお酒や音楽じゃないでしょ。

ライブハウスも最初やり玉に挙げられたけど…
そういうのが…………………………………………

僕、喋りすぎていますかね?笑

小野寺:いや。笑

藤岡:
前に若い子が入店してきたときがあって。
道まで音が流れてるのを聴いて気になったんですけどっていう子がいたのね。

で、いつもどうやって音楽を聴いてんのって聞くと、まあイヤホンとかでスマホで聴いてるっていうから、そうなんだって相槌うってたら…
こういうところでスピーカーからちゃんと体に感じて聴きたいから入ってきましたって子がいて。
そういう子が来るときはすっげえ嬉しい。

そのためにやってんだもん。
やっぱ、お店やってる人もそういうふうに、そのためにやってるんですよね。
俺なんかね、そういのはすごいあるんですね。

VOXとのコラボ曲[僕らの箱]のレコーディング風景。

VOXとのコラボ曲[僕らの箱]のレコーディング風景。

 

  • 小野寺「隆さんがお店やってる姿を見ると商売っていうよりは本当に音楽を勧めたい、自分の楽しさや喜びでやってるっていうのをすごく感じる事が多くて。」

小野寺:
東京で暮らしてると、家でそうやって大音量のスピーカーで聴く機会もなかなか難しいですよね。

隆さんがお店やってる姿を見ると商売っていうよりは本当に音楽を勧めたい、自分の楽しさや喜びでやってるっていうのをすごく感じる事が多くて。
やっぱり今の状況だと、それがどうしても叶わないから、かなり歯がゆい状態なんだろうなってのはすごい思うんですよね。

大田:
まあ、なかなか営業できない中、僕やのりふみもね、ライブさせてもらったりお世話になってますね。

改まっちゃいますけど、今回ね、[僕らの箱]ではベースも弾いていただいたMUSIC BAR VOXの店主藤岡隆さん。
ちなみに隆さんはですね。あたしのバンド芥(あくた)や、のりふみたちのアコースティックユニット「HiruNori」のポスターやCDのジャケットなどビジュアルのあれこれも担当して頂いております。
昔から濃い繋がりがあるんですよ、あたしたちは。

藤岡:
西荻にはいいミュージシャンがいっぱいいるのになあって俺は思ってて。
だからうちで「お勧め聴かせてもらいます?」ってリクエストがあったら西荻の誰かのやつをかけるんです。
「すごくいいですね」つってCD買ってくれる人とか結構いるからね。

大田:
20年近く住んでますが…このコロナ禍、改めて西荻という町を肌身に感じてます。
一町民として音楽で融和を図り、よりよい地域づくりをできたら…なんて。

今まさに走り出したこの企画ですが、ご覧の皆さん知恵や激励をなにとぞ。

 

■小野寺のりふみプロフィール
小野寺のりふみのプロフィール写真
15歳からギターを始め高校卒業後、東京に上京し自身のバンド活動、様々なバンドのサポートなどを行い2015年には日本人ながら世界デビューを果たしたロックバンド「ザ・マッド・カプセル・マーケッツ」の元ボーカリストKyono(キョーノ)が在籍するT.C.Lにてサポートギターを務める。その後、エレキギターをナイロン弦ギターに持ち替え2017年アコースティックユニット「ヒルギ×小野寺のりふみ」として全国デビュー。(現在はHiruNoriと改名)現在はユニット活動を中心としながらソロギタリスト、スタジオミュージシャンとしても活躍中。

 

MUSIC BAR VOX
住所:東京都杉並区西荻南2-20-5
電話番号:03-5942-5936
営業時間:平日 19:00〜1:00
土・日・祝 17:00〜1:00
定休日 月曜日
※新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前にご確認ください。

大田誠師
その他、西荻ズムの写真はtorii seicoのインスタをチェックしてみて下さい。

脚注

  1. HiruNori…2014年結成の沖縄出身のボーカル【ヒルギ】と岩手県出身ギター【小野寺のりふみ】からなる音楽ユニット。
  2. 都内での緊急事態宣言…
    1回目・20/4/7〜5/7(延長)⇨5/25
    2・21/1/8〜2/8(延長)3/8(再延長)⇨3/21
    3・4/25~5/11(延長)⇨5/31
    4・7/12~8/22(延長)⇨9/30
  3. STUDIO VOX…6月に大田が企画した飲食店のスタジオ化プロジェクト「STUDIO ○○」シリーズ。その場で作曲・録音する。
  4. ミラクルシャドウ…キャッチーでポップなメロディーと、懐かしく温かい“手作りサウンド”をモットーに、1996年、安田しん二(リーダー、ヴォーカル、ドラムス)、吉岡よすお(ベース)、ギタリストの村上ムッチの3人で結成。メンバーチェンジを経てバンド名を変更する事により事実上“幻のバンド”となってしまう。インディー・レーベルで、アルバム1枚、シングル3枚をリリース。引用元:安田しん二 の (バナナス、魅惑の音楽団) プライベート・サイト、 『アナログメンズ倶楽部』

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